詩吟に本格的な伴奏を入れるようになったのは、昭和20年代後半で昭和初期より大戦までの間は、無伴奏を建前とされておりました。
精神的な支柱と漢詩を吟じ、心を養い、併せて体を鍛えることを目的とした詩吟には、伴奏は不必要とされておりました。しかし、平和な時代の訪れと共に節調も華麗となり、音楽の要素を採り入れた繊細な詩吟となった今日では、音楽的な和洋楽器による伴奏が多く用いられるようになりました。
吟詠大会などで尺八・箏の生演奏を依頼する場合には、調律(音程変更)の手間を考えたプログラム編成や進行時間に配慮するためにも、詩吟関係者は尺八・箏についての基礎的な事柄を理解しておく必要があります。ここでは和楽器として多く用いられる尺八と筝(琴)について、ごく簡単な説明をします。

1.詩吟の伴奏

  伴奏は詩の表現効果を高めるためのもので、吟声との調和・運びを良くすることで、あくまでも補助的なもので、詩吟の性格的な一つ  とも云える即興的な
  要素に合わせた「アド・リブ」と呼ばれる演奏方法で次の三つの方法が考えられます。
  (1)吟者に影の如くに付いて伴奏する
  (2)吟者に付いたり離れたりして伴奏する
  (3)吟者と協調したBGM的な伴奏をする
   最もよく用いられるのは(1)の方法で、吟者は自分のペースで詠い、伴奏に声を合わせようとしてはいけません。
   しかし前奏を上手く利用することは必要です(声の高さを合致させる)。

2.音について

音名(音の呼び名) および 音程(音の間隔)

音符

半音・全音の間隔
         全音(一音・二律)= 半音(一律)+ 半音(一律)
詩 吟: 声(主音)の高さ(一本 半音 #♭)
尺 八: 長さの呼び名(一律 半音 尺寸) 但し孔間隔は三律(一音半)
箏(琴): 弦の呼び名(一律 半音 #♭)

英米名CDEFGAB
日本名ファ
雅楽名神仙(しんせん)壱越(いちこつ)平調(ひょうじょう)勝絶(しょうぜつ)双調(そうじょう)黄鐘(おうしき)盤渉(ばんしき)
鍵盤
雅楽器鍵盤名















               声明の音階

声明の音階

声明(しょうみょう) 参照⇒音楽の科学
あらゆる邦楽のベースになったといわれる


五音 五調子

















3.尺八について

竹の縦笛の一種で、一尺八寸(約55cm)の長さのものが基本であるところからこの名がある。 中国には洞簫(とうしょう/どうしょう)という縦笛があり、古代にも尺八の名で雅楽に用いられた六孔のものが伝来したが、その後廃絶した。
現在の尺八は近世(江戸時代)に虚無僧の修行用として用いられた五孔の普化(ふけ)尺八が起源である。リコーダーとは違って、吹き口(歌口)に息の流れをコントロールための機構がないため、音を出すためには的確な角度や唇の形が必要となる。 指孔の数からみれば五音音階しか出せないはずであるが、半開や吹奏角度の変化を利用して、あらゆる音階だけでなく、雑音的効果も含めた多様な音色を出すことができる。
江戸時代には、本曲と呼ばれる修行用の独奏だけが公式に認められたものであったが、明治以降は箏や三味線との合奏も盛んに行われるようになり、三曲合奏と呼ばれる。 基本的な一尺八寸管以外にも、様々な長さのものが使われ、一寸違うとおよそ半音ピッチが変わる。


尺八の種類

尺八には長管・短管があり、長い尺八は音が低く、短いのは高くなります。一寸の長さの違いが、詩吟の一本の違い(半音)と同じです。
  (前面)           (背面)             (短  管 ・ 長  管)

尺八の前面
尺八の背面
尺八の長短
長さの呼び名全閉孔音
(筒音)
音名音の高さ
一尺一寸A高い















低い
一尺二寸#G / ♭A#ソ / ♭ラ
一尺三寸G
一尺四寸#F / ♭G#ファ / ♭ソ
一尺五寸Fファ
一尺六寸E
一尺七寸#D / ♭E#レ / ♭ミ
一尺八寸D
一尺九寸#C / ♭D#ド / ♭レ
二尺C
二尺一寸H
二尺二寸#A / ♭B#ラ / ♭シ
二尺三寸A
【注】一寸=3cm強  一尺=10寸
#=1本(半音)高 ♭=1本(半音)低
一律=半音 二律=一音

尺八の吹き方
               レッスン(1)                               レッスン(2)

音  律十二律
(オクターブ)
運     指
●=閉 ○=開
備     考
前  面背面
一孔二孔三孔四孔五孔
D (レ)壱越一孔の間隔 = 三律(一音半)

中間音(#♭)の出し方
   指の開け加減 尺八の半孔
   唇と歌口の角度歌口の当て方
半音(#♭)の運指に
   尺八特有の難しさがある
    尺八を吹く
     首振り三年
F (ファ)勝絶
G (ソ)双調
A (ラ)黄鐘
C (ド)神仙

尺八の音程
孔間隔は三律(一音半)

尺八の音程

尺八の奏法

尺八の楽譜

琴古流楽譜
都山流楽譜

尺八の楽譜は縦書きで、音はカタカナで表されています。
ツ、レ、チ、リ・ハ 楽譜(ロー)
琴古流はロ、ツ、レ、チ、リ、
都山流はロ、ツ、レ、チ、ハ、
リズムですが、まず琴古流は音の右・左に点があります。
右点が「表」拍子、左点が「裏」拍子でリズムを取ります。

4~16分音符

音の真ん中に縦線が入っています。
一本線だと八分音符、二本線だと十六分音符…

都山譜は琴古流より新しい流派なので、五線譜の感覚も取り入れられていて、
四角のマス一つが一小節を表しています。
こちらは音の横の縦線が同じ様にオタマジャクシの旗の役割を持っています。
                こちらも一本線だと八分音符、二本線だと十六分音符…

また、最近では尺八譜だけでなく五線譜で演奏する演奏家も増えてきました。



レッスン「春の海」(宮城道雄)

音符「春の海」



「ニュー尺八」 新しい尺八(ケーナ尺八)で、首振り5分で吹けるようになりますよ!

ケーナ尺八

ケーナ(quena)
南米の楽器である。これで演奏された曲でよく耳にするのは、「コンドルは飛んでいく」、「花祭り」などの民謡、或いはアニメの「母をたずねて三千里」や「おしん」の主題曲、他国の民族楽器では比較的日本に浸透している方だろう。構造としては尺八と同類で、縦笛の無簧楽器である、ただ吹いても音は出ず、唇を歌口に当てて角度や加減を調節し、音の出る箇所を見つけねばならない。更に、音の高さによっても微妙に息を変えねばならず、速い曲を演奏するのは大変に難しい。
楽器と言うのも道具の一つであるからには、その発達には様々な試行錯誤があり、最終的に生き残った物にはそれなりの理由がある。そしてそれは、必ず「個性」と「操作性」の二つの側面の間で調和を図らねばならない。
楽器の場合、音を出し易くきちんと調律されたもの程安定しているが、代わりに自由度がなくなる。ピアノでポルタメントを出すことは出来ないし、フルートで能管の曲を演奏するのは不可能だ。ケーナは同族の尺八に比べて穴が多い。尺八は五孔で立ち止まったのが、こちらはオクターヴに合わせて穴を増やしたそうだ。これは音階の作り易さを意味する。尺八よりも演奏は易しい。尺八はどうもという人にも充分に挑戦の余地はある。


バーンスリー(インド) 中日新聞(H28.3.20 日曜版)より転載
バーンスリー
アルプホルン(スイス) 中日新聞(H28.4.17 日曜版)より転載
アルプホルン

                                             インドの神様 クリシュナ
インド音楽を聴いて ゆっくりしましょう


パンパイプ

サンポーニャ

日本の和楽器「簫」(しょう)に似た楽器で世界各地にあります。底を閉じた管に息を吹き入れて音を出すもので、パンパイプとはギリシャ神話に出てくる神様の名前です、左図は南アメリカの「サンポーニャ」と呼ばれる楽器で、下図はその構造図。
パンパイプ
参考⇒(しょう)について


ここで一休みして、ケーナ演奏♪コンドルは飛んでいく♪を鑑賞してください。

ペルー


                           尺八演奏家:河野正明(こうのまさあき)先生

河野正明
河野正明

昭和22(1947)年生まれ。船川邦楽研究所師範、尺八「ささのね会」主宰、18歳より都山流尺八の手ほどきを受けた後、作曲家・船川利夫先生に師事し現代邦楽を研究。ロシア・中国・アメリカ等での公演を経験、特に吟詠音楽に関する活動は多岐にわたり、NHKテレビ・ラジオFMの吟詠番組にレギュラー奏者として活躍中。また財団の武道館大会など各種大会の尺八演奏家として活動。昭和20年10月の船川利夫先生ご他界後は吟詠伴奏音楽の編曲を手がけるととも
         に、全国吟詠コンクール決勝大会等の調和専門審査委員を務める。


参考⇒現代尺八奏法講座
   曲名:尺八譜    (mp3):尺八演奏





4.箏(琴)について

尺八とともに箏が多く用いられます。筝は日本に古くから伝わる楽器で幾種類のものがありますが、普通には13本の絃を持つ日本在来のものを云いまた、宮城道雄氏が考案した17本の絃をもつ大型の低音域箏もよく使われます。
                  現在使われている箏の種類
箏の種類
他に日本独自の琴があります
二弦琴(にげんきん):神様のためにひく音楽(出雲大社など) 一弦琴:伝説では平安時代に生まれた
【13絃筝】

箏(13絃)

琴柱と爪




上図の上部から「一の絃」~「巾の絃」まで13本の絃があり、詩吟の本数に合せて「琴柱(ことじ)」を左右に移動して調弦します。琴柱有り→「(そう)」 琴柱無し→「(きん)」     (参考「」→「」常用漢字)

基準音(主音・宮音

弦の呼称()()(きん)
高調子壱越D()GA#AD#DGA#AD#DGA
低調子双調G()CD#DG#GCD#DG#GCD
詩  吟
(絶句、8本)
C#CD#DE()F#FG#GA#ABC

13弦の音階


                            詩吟の音階 : 詩吟の楽典 を参照してください

主音「一の弦」の高さ(平調子)

音  域低 調 子高 調 子
雅楽音名双調(そうじょう)黄鐘(おうしき)神仙(しんせん)壱越(いちこつ)
尺八音名
(一尺八寸)
階  名
(G)

(A)

(C)

(D)

箏の調弦(チューニング)の仕方
手順①:主音「一の弦」の高さを合せる

合せる尺八(一尺八寸)の高さ:高調子・壱越⇒「」  低調子・双調⇒「


手順②:13弦全体(一~巾)の高さを合せる

詩吟の音階(絶句、8本) 鍵盤(白鍵・黒鍵#♭)をクリックすると音が出ます

                     主音E(ミ)

C#CD#DE()F#FG#GA#ABC



1.琴柱の立て方 調弦

2.音の出し方の基本

|STYLE:left|

3.筝譜の見方

筝譜

ここで箏譜の見方を簡単に説明しましょう。左サンプル図は各々の最初の1小節です。
上の番号の「1」「2」「17」は、それぞれ「1箏」「2箏」「17絃」を示しています。
この箏譜は縦に見ていきます。小さな四角()が1拍で、縦4つで1小節になっています。小節
小さな四角の中の左側横半分だけの線(━ )は1拍の半分の境目です。
1箏を見てみましょう。最初の音は「三」の絃で半拍分の長さ(8分音符 8分音符)です。
その次の「一」と「二」は半拍の中に二つ入っているので、それぞれが半拍の半分の長さになります。五線譜でいうと16分音符(16分音符16分音符)です。
その次の「三」が半拍(8分音符 8分音符8分音符)になることはおわかりになると思います。
2箏の三角形()は休符と延長記号です。三角形だけのものが休符で、三角形の中に点()があるものがその分だけ音を延ばす延長記号(フェルマータ 延長記号 )になります。(休符は流派によりも使われる)
17絃の丸印は1拍の休符(4分休譜)で、この例では1小節全部に休符がありますので全休符(全休符)になります。




譜面を見ながら実際の演奏(器楽曲)をお聴きください。

洋楽譜



【再生の仕方】
画面中央の[]をクリックすると再生が開始され、再生画面上にマウスを置くと
表示される下のバーで 一時停止(演奏停止)・で再生を継続します。
再生画面右下角の 印(フルスクリーンモード)をクリックすると画面表示が拡大され、キーボードの「Esc」キーを押すと元に戻ります。


【17絃筝】
従来の箏が13弦であるのに対して、合奏における低音部用として大正時代に宮城道雄により考案された箏。現代では流派を超えて広く用いられ、独奏曲も数多く作られている。単に弦数が増えただけではなく、弦の太さや楽器全体も大型化している。初期には大十七弦と小十七弦の二種類があったが、現在は全長210センチ程度のものが一般的である。さらに一本増やして18弦のものもあるが、名称は十七弦のままである。なお、十七弦の「弦」の字は固有名詞としては「絃」を使うべきです。

17絃筝

「一の絃」~「十七の絃」の17本の弦があり、低音箏とも云われます。
17絃筝音譜


十七弦の音階


5.尺八と箏の演奏

低音箏(左)と高音箏(右)の演奏(五段砧)



有名な「春の海」(宮城道雄)を風景とともにご覧ください



実際の吟詠伴奏(6本・D・壱越)を聴いてみましょう

 試聴するとき(再生)のプレイリストバーの使い方
プレイリストバー
下記Webサイトが非常に参考になります。
洗足学園音楽大学・伝統音楽デジタルライブラリー


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