漢詩の基礎知識

漢詩の歴史

青色字は日本の状況
漢詩とはもともと漢代(前202〜220)に作られた詩をいうが、日本では中国の詩のすべてを「漢詩」といっている。これは「和歌」に対していったものである。
世界最古の詩集「詩経」(前770〜403:春秋時代)がその起こりと云ってよく黄河流域でつくられた詩で、次いで長江地域で屈原らにより「楚辞(そじ)」(前404〜222:戦国時代)が生まれた。
中世前期(魏・晋・南北朝)には曹操・曹植・阮籍・陶淵明などが出、中世後期(590〜960:隋・唐・五代)になると李白・杜甫・白居易など中国を代表する詩人が輩出して全盛を極めた。この時代に漢詩の詩型が完成した。
日本ではこの頃(奈良時代)、随唐の文化が流入するにつれ宮廷貴族の間で、漢詩文「懐風藻」が盛んに作られるようになった。平安時代初期は唐風謳歌の時代で、漢詩文は男子必須の教養として重視され、勅撰漢詩集が相次いで編まれた。空海・菅原道真の時代である。
近世から近現代に到ると唐詩の基準に依拠しながらも、昂揚と情熱の詠出を好んだ唐詩と異なり、平静で理知的詩境を好んだ「宋詩」(961〜1279:宋時代)が開拓された。蘇軾や陸游は宋詩を代表する詩人である。
政治の実権が武士の手に渡った鎌倉時代は、不安定な政局と戦乱が文学にも影響し、京都五山の禅僧による「五山文学」にその姿を留めるのみ。
江戸時代に入ると幕府の保護もあり、漢学(儒学)が空前の発達を遂げた。林羅山・中江藤樹・伊藤仁齋・荻生徂徠・服部南郭らがある。漢学の隆盛によって漢詩文の研究・創作も熱心に行われた。近世後期の漢詩人に菅茶山・広瀬淡窓・頼山陽・梁川星巌らがいる。

以上の状況から、漢詩というと「唐詩」が主要な位置を占め、吟詠では唐詩が主に詠われる。
参考 : 【漢詩簡略年表】 

漢詩の分類

漢  詩
(中国古典詩)
古体詩古詩(長詩)四言古詩(四字一句)
五言古詩(五字一句)
七言古詩(七字一句)
楽府(がふ)・楽府体(長句・短句)
近体詩
(今体詩)
絶句(四句)五言絶句(五字一句)
七言絶句(七字一句)
律詩(八句)五言律詩(五字一句、対句四句)
七言律詩(七字一句、対句四句)
排律詩(十句または十二句以上
の長詩)(長律詩)
五言排律(五字一句)
七言排律(七字一句)

詩吟では絶句と律詩が主に吟じられます。
古体詩 唐代以前に作られた詩で、作詩法もあまりきびしくなく長詩が多い。一般に漢魏六朝の詩を指す。
古詩 句数の長短や平仄も自由、ただ押韻に若干の制限がある。
楽府 もと音楽を司る役所の名で、漢の武帝の時に設けられ、長官楽師・李延年の名が有名。この役所では管弦を伴奏して歌う歌章(詩)を制作して曲をつけて歌った。その詩型が楽府体または楽府。これが唐の時代になると、自由詩として新楽府が生まれた。
五言古詩では「子夜呉歌」・「月下独酌」(李白) 「正気の歌」(文天祥)---岳精会々詩の" 古道顔色を照らす "に引用、七言古詩では「秋風の辞」(漢武帝) 「垓下の歌」(項籍)がよく知られている。
近体詩 
唐代に完成された「新しい体」で、韻律は厳密である。

漢詩の規則

詩の構成(近体詩の規則)

絶 句律 詩句の性格(絶句)作 例 (絶 句)
第一句起句第一句
第二句
首聯(起聯)うたい始め京都五条の糸屋の娘
第二句承句第三句
第四句
頷聯(がんれん)(前聯)その内容の説明姉は十八、妹は十五
第三句転句第五句
第六句
頸聯(けいれん)(後聯)詩想を転換する諸国大名は弓矢で殺す
第四句結句第七句
第八句
尾聯()(結聯)前三句を締める糸屋の娘は目で殺す

作例は頼山陽が作詩の初心者に題材として教えたといわれる俗謡(いろいろな文例がある)
字句の構成 平仄(ひょうそく)押韻(おういん)対句(ついく)
【例】 宴城東荘(城東の荘に宴す)    崔 敏童

 七言絶句(平起式)平 仄押 韻対 句
●   ○  ●  ●  ●  ○ 
一 年 始 有 一 年 春
一年始めて一年の春有り
○平字 
●仄字 
押韻 
(chun( ━))
  しゅ
 韻
 目
 は
 
 
 
 
 
 上平声十一真
年 と
り と
律詩の頷聯・頸聯
には必須
絶句は無くてもよい
●  ●  ○  ○  ●  ● 
百 歳 曽 無 百 歳 人
百歳曽て百歳の人無し
ren( /))
   じ
○  ●  ○  ○  ●  ○  ●
能 向 花 前 幾 回 酔
能く花前に向って幾回か酔わん
押韻なし
●   ○  ●  ●  ●  ○  
十 千 沽 酒 莫 辞 貧
十千酒を沽うて貧を辞すること莫れ
pin( /))
   ひ

字句の構成 古体詩・近体詩を問わず
五言詩 ---> ○○ + ○○○   七言詩 ---> ○○○○ + ○○○ (○○ + ○○ + ○○○)
平仄 漢字音の高低アクセント(四声(しせい) 現代中国語とは異なる)に基づくもので、「平声(ひょうしょう)音」--->「」、「上声音」・「去声音」・「入声(にっしょう)音」--->「」と定め、その組合せである。漢字一字一字の平仄は漢和辞典で調べることが出来ます、下表はその表示例です。

平仄の説明

平声[ひょうせい/ひょうしょう]
  高く平らな調子の語
上声[じょうせい/じょうしょう]
  語尾がしり上りになる調子の語
去声[きょせい/きょしょう]
  語尾がしり下りになる調子の語
入声[にゅうせい/にっしょう]
  語尾がつまる調子の語
平起(ひらおこり)式」と「仄起(そくおこり)式」があり、起句の第二字目が平字で始まるか仄字かによる。上の例ではが平字(○)で始まるので平起式。平字・仄字の配置には規則(二四不同、二六対など)がある。
押韻 漢詩では句末に韻を踏んで調子を整える「脚韻(きゃくいん)」、この押韻にも規則(韻目に合う平字を決められた句末に置く)がある。
対句(ついく) 対応する言葉に何らかの意味上の関連がある。
   絶句(両箇の黄鸝) 杜甫            
(起句)両箇(りょうこ)黄鸝(こうり)翠柳(すいりゅう)() 二羽(つがい)の鶯(こうらいうぐいす)が、緑の柳の枝で鳴いている 
(承句)一行(いっこう)白鷺(はくろ)青天(せいてん)(のぼ) 空には白さぎが一列になって、青空高く舞い上ってゆく
(転句)(まど)(ふく)西嶺(せいれい)千秋(せんしゅう)(ゆき) 浣花渓の畔の草堂の窓から見ると、はるか彼方の西の連山が、万年雪をかぶり
(結句)(もん)(はく)東呉(とうご)万里(ばんり)(ふね) 門の東の万里橋には、東呉(江蘇省)に向って旅をしようとする船が留っている 

対 句
起句
承句
転句西秋雪
結句里船

漢詩鑑賞の仕方

(大修館書店「漢詩の鑑賞と吟詠」より一部引用)
素読 先ず声を出して繰返し音読(訓読)する
語意・通釈 解説書などで語句の意味・詩全体の意味を知る
対句 詩の修辞法である「対立の美」(相反する語句)や「並列の妙味」(同類の語句)を味わう
詩眼 詩の生命となっている語句を探す、一般には結句にある
作意 どんな意図・発想で作られたかを知る
作詩時期・場所 詩の詠まれた季節・時刻・場所を知る
時代背景 作詩された時代の社会情勢などを知る
作者 作者の生立ち・経歴・思想・特質を調べる
吟詠 声を出して吟じてみる 鑑賞の終極は詩を吟じることに尽きる
上例の漢詩「城東の荘に宴す(崔 敏童)」の吟詠を聴いてみましょう


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このページの最終更新日時:2016-06-29 (水) 12:50:56