日本音楽(邦楽)について

日本音楽(邦楽)の全体像を図解で概観してみましょう。
田中健次著「図解・日本音楽史」(東京堂出版)より抜粋させていただきました、一般向けの日本音楽史で「詩吟」や「民謡」まで浅いが広い分野まで網羅した解り易い邦楽ハンドブックです。

日本音楽と邦楽

「日本音楽」と「邦楽」の定義は
 時代とともに変わる



日本音楽の体系は複雑であり
一元的な系統説明はきわめて難しい



明治では西洋音楽の対立概念とされたが
近年では日本人によるPOPSなども「邦楽」ジャンルに入る
そのため三味線音楽などは「純邦楽」で区分される




















邦楽の変遷
邦楽の変遷

日本音楽の分類

うた(楽)は世につれ、世はうたにつれ



日本の伝統音楽は「声楽」・「器楽」さらに「語り物」・「歌い物」に区分
声楽曲が85%を占め日本の伝統音楽の特性
時代による受容層にも注目:貴族・僧徒・武士・町人























歌い物と語り物

主導は「音楽」か「歌詞」か



日本には昔から祭祀や労働のときにフシをつけて歌う習俗があった
やがて、各時代の音楽様式や旋律・楽器の持ち味などを巧みに取りいれ「歌い物」「語り物」の系統区分が確立されていった

詩吟は音楽的傾向が強まったが
語り物」であることを認識して詠わなければならない





















芸能と日本音楽

二大悪所が育んだ近世邦楽



日本音楽は時代ごとの演劇や舞踊と密接に結びつきながら発展
貴族や武家の庇護を受けた芸能・音楽は、パトロンの美意識・嗜好のもとに深耕され
一方の民衆音楽は木戸銭をとる興行形式であり、民衆の人気・移り気や芸能の多様化が新種目の発生・廃絶を起こさせた。
それらの温床は「劇場」「遊里」という二大悪所であり、庶民の歓楽場所では音楽は不可欠の世界で、数多くの歌舞音曲が産み出された。





















うた・歌・唄

多様な「うた」の世界




歌 謳 謡 唄 哥




これらの表現・使い分け・概念などには微妙な差異や混乱があるが、永い時代を経て生成されてきた証で致し方がない。











は本来、梵唄や如来唄など声明の一種で一字一字を長くひいてユリなどの節をつけて唱える声楽用語で



吟唱(ぎんしょう)が詩吟の起源かも知れない

邦楽固有の用語

専門用語に化けた日常語



固有の概念を表す用語は非常に多く、上記の「うた」以上に理解が難しく混乱しやすい。

「地色」や「色詞」などは、アナログ的といわれる日本音楽の体質をあらわす真骨頂の用例























音楽特性

まぬけを嫌う音楽

参照音楽の科学

日本音楽の理論は渡来した中国理論を日本化したもので、個別の曲や演奏を重視する傾向が強く、体系化の動きがほとんどなく理論は後追いになる状況が続いた。

近代になって上原六四郎(1848~1913)が、日本音楽が「」と「」の「五音音階」であることと「田舎節(いなかぶし)(陽旋)(ようせん)」「都節(みやこぶし)(陰旋)(いんせん)」の二種に分け、それぞれの音階の上行形と下行形では違う音を用いることを指摘した。
()旋法:ラ・ド・レ・ミ・ソ
(りつ)旋法:ソ・ラ・ド・レ・ミ

その後、小泉文夫(1927~1983)が民謡調査を通して、日本音楽には旋律中にその音楽を決定する音「核音(かくおん)」の存在を見出し、その核音を含んだ四種類の音階(基本テトラコルド)理論を提示した。
民謡音階」「都節音階」「律音階」「沖縄音階」で、現在もっとも普及している日本音楽の音階論です。

さらに小泉は民謡リズムについて、
」をもつ無拍子でメリスマ様式(歌詞が一字多音)の「追分節」とシラビック様式(歌詞が一字一音)の「八木節」に分類した。今では民謡に限らず日本音楽全体にも、この分類が適用されている。

リズムの最小単位「拍」が、まとまって周期的に変化するのを「拍節」と呼び日本のリズムの特徴は洋楽のような強弱周期ではなく
表間(前拍)」「裏間(後拍)」という一拍を前後に分けた
                                    二拍構成で「拍子」といい類型化したものには「○○拍子」という
                                    特定な名前がつけられている。
                                    この拍も時間の伸縮が自在なので、均等なリズムを刻む洋楽に慣れた
                                    現代人には違和感があるかもしれない。

                                    これらに大きく影響するのが「」という独特の感性で
                                    洋楽の休符ではなく楽音と楽音の間にある時間的空間の「無音」
                                    という音である。
                                    上手く出来ないと「間抜け」「間延び」といわれ台無しになる。

伝統音楽の記譜法

種目・楽器・流派で異なる楽譜

参照岳精流の吟譜音楽の科学

日本音楽の伝承は口伝によるもの楽譜を用いない、というのは誤解です。楽譜は種目や流派ごとに存在するが、共通性があまり有りません。

日本音楽は単旋律のものが多く、西洋音楽のような和声や合奏があまりなく共通楽譜の必要性がありませんでした。しかし師匠と一対一の口頭伝承が原則で、楽譜はメモ程度の役割でしかありませんでした。

日本音楽の学習は楽しむより「修業」という感覚で学び、演奏技術だけでなく師弟間の「礼節」「作法」「しきたり」までが伝授項目の対象となっている。詩吟では吟道といわれるように、練習の始めには生徒全員で吟礼(会詩合吟)を行ないます。下記【参考】


その後、愛好者が増え稽古の利便性が求められ楽譜が考案されたが、種目や流派により記譜方式が異なります。

特徴は楽器用の「奏法譜」と歌用の「唱法譜」に分かれているが、音高・音長などを理論的に教えることができないので、テン・トン・シャンなど「口三味線」のような擬音的なものが普及した。

ネウマ譜・博士譜・ソルミゼーション(洋楽で用いられる階名唱法)と時代や洋の東西が離れていても、人間が考案する道具は似ているのは驚きです。

                                    日本では「作曲」とはいわず「節付」とか「手付」と呼び概念が違う
                                    節付(ふしづけ):声楽の作曲のこと
                                    手付(てづけ):伴奏や楽器の作曲のこと



【参考】岳精会の吟礼(岳精会々詩)・師範の心構え

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師範の心構え



流派・家元

親も同然の師匠

日本の伝統芸能が永い歴史のなかで古格を継承できたのは、家元制度のおかげといっても過言ではない。流派や家元(家本)という組織構造は、日本人の精神の根本に「家」という概念があるもので、これは芸能にとどまらず宗教・政治・経済・文化の各方面に及んでいる。
その組織の総帥を「家元」といい、家父長的存在として原則は代々世襲で継承されるが、種目によっては必ずしも血族とは限らない。
この管理システムは教授料・免許料などの利権を伴うので、その権力をめぐって流派内の紛争や分裂が起こります。古格が守られるという利点がある反面で、他種目や他流派との交流が阻害され時代の流れに即応できない結果が生ずることがある。
詩吟の流派(流統)は数百以上有るともいわれ、その吟法(節調)は微妙に異なる。
岳精流日本吟院は、最大組織である(公財)日本吟剣詩舞振興会に所属し、北は北海道から南は沖縄まで22会・13支部・33独立教場(平成27年6月現在)を擁し、我が三河岳精会は愛知県西三河地域を活動範囲として53教場(平成27年6月現在)をもつ最大規模の岳精会です。











詩吟とは

詩吟(しぎん)」か「吟詠(ぎんえい)」か?


中国唐時代の漢詩が日本に伝来し、雅楽の「朗詠(ろうえい)」となり
薩摩琵琶・筑前琵琶などのサワリの漢詩が独立して吟詠になったと云われる。その後 幾多の変遷を経て現在に至っている。
近年は芸能的要素が濃くなるとともにエンターテイメント化(舞台化)が進みましたが、現在は少子高齢化に伴い詩吟愛好家人口は減少化傾向にあり、幼少年の育成に努力しております。






岳風会の創始者:木村岳風先生の直弟子が
我が岳精流の家元:横山岳精先生(初代宗家)です。
祖宗範:木村岳風先生








家元:横山岳精先生(初代宗家)



漢詩と吟法

漢詩と吟法


漢詩を作るには字数・句数などのルールがあります。表記には白文(元の原文)・訓読文(読み順の符号付き)・読み下し文(送り仮名を付けた日本文)がありますが、詩吟は読み下し文で吟じます。旋律を表す詩吟の楽譜(吟譜)は流派や記譜法で色々なものがあり、ネウマ譜・線譜などを使いますが、洋楽の楽譜では複雑になり節回しなどが上手く表示できません。詩吟の旋律は短音階で、淋しく悲しく陰にこもって聴こえるのが特徴ですが、この悲壮感こそが詩吟の命であり、それが日本人の精神性に訴えるのでしょう。

詳しくは詩吟の楽典岳精流の吟譜などのページを参照



















カントリーソング

民謡はカントリーソング


民謡とは文字どおり「民衆の歌謡」で長い時代をかけて民衆がつくり伝承されてきた歌です。もとは田舎歌・俚謡・俗謡などと呼ばれたが、地方の歌=カントリーソングです。わらべ歌や子守唄は民俗音楽の別項目として分類されています。民謡の必須条件として六つが挙げられていたが、変容して現在では他の歌謡とともにうたわれています。



追分様式:気分とか感情表現を重要視するタイプの民謡で、歌詞のイントネーションから離れた旋律的なもので音域も広く、伴奏には尺八が向く。

八木節様式:旋律は歌詞と密接で比較的音域も狭くリズムが明確で、伴奏楽器には三味線や太鼓が向いている。













わらべ歌と子守歌

わらべ歌・唱歌と子守歌


民謡と同様な生成過程・伝承性はあるが、子供の創造性や即興で歌詞を替えたり、遊び方も変化しており民謡とは趣がやや異なります。「童謡」「唱歌」は大人の作者がつくったもので「わらべ歌」の自然性とは大きく違います。子守唄は民謡の労作歌(仕事歌)と同類であるとの説もあり、「眠らせ歌」ばかりではなく「五木の子守唄」「島原の子守唄」のように子守仕事の辛さや身の不幸を嘆く「口説節」もある。




















わらべ歌子守唄を聴いてみましょう


日本のワークソング

日本のワークソング


”何をするにも先ず歌から”といわれるように「労作歌」(仕事歌)はきわめて多く、昔は人手を中心とした労働集約型の作業でパワーの集中に民謡、特に掛声や合いの手はなくてはならないものでした。農業は工程別に細分化された歌が多く同じ歌名があります。「神事歌」や「芸事歌」も広い地域に伝播された。

























民謡の伝播

民謡の伝播


民謡のディアスポラ(離散)現象ともいうべきもので、時代を経て各地へ伝播して定着している民謡は数多くあります。

垂直(時間)伝承:時代による変化

水平(地域)伝播:地域間の違い


















下記の動画と歌詞(南部牛追い唄 ソーラン節 ドンパン節)
を見比べて見て下さい




       南部牛追い唄(岩手県)

南部牛追い唄


民謡の伴奏

民謡の伴奏


民謡の本来は無伴奏では囃子詞(やしことば)のみで、あっても手拍子ぐらいでしたが、現代では弦(三味線 胡弓)・管(尺八 篠笛)・打(太鼓)の和楽器が伴奏として用いられ特に三味線・尺八が主力です。囃子詞にも長短があり、盆踊唄では「掛け声」(”ドウシタドウシタ”、”ドッコイショ”)に近い。



日本楽器の分類は
弾きもの(弦楽器) 吹きもの(管楽器) 打ちもの(打楽器)


















            ソーラン節

ソーラン節歌詞









            ドンパン節

ドンパン節歌詞

















参考7分の7拍子 日本音楽理論などとても参考になります・


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